立ち稽古〜動き

演劇にもキーフレームがある。

次にやるべきことは、舞台上の動きを作ることです。
キャラクター個々人の細かい動作(身振り、仕草、いろんな言い方があります)ではありません。舞台上に十人の人間がいるのであれば、その十人全員が舞台上のどこに配置され、どのように動いて次の配置に移動するのか、ということです。

アニメーションでは、動作の重要なポイントを描く原画(キーフレーム)があり、その原画間をアニメーターたちが埋めていく…らしいです。
僕は演劇においても、このキーフレームがあると考えています。

では演劇におけるキーフレームとは何でしょう?

まず、ストーリーの中で重要と思われる瞬間を切り取って、いっさいの台詞も動きもなくした静止画にします。
それを漫画のように静止画だけでつないでいきます。

それでも、おおよそストーリーが分かる、それがこの物語に絶対必要なフレーム=キーフレームです。

なぜキーフレームのことを意識しないといけないのでしょう?
それは、物語における重要な瞬間は、台詞も動作もない静止画にしたとしても、パッと見ただけで伝わるように舞台上を配置しなければならないからです。

全体の配置は象徴的に

人間は情報の8割を視覚から得ているということは、すでに述べました。そして演劇は、映像と違ってみせたいものだけをアップにして映し出す、ということができません。観客は、常に引き絵で舞台を見ています。

ですから全体の配置が象徴的になっていることは重要なのです。
僕はこれを、全体の絵作り、と呼んでいます。

そしてどのように人物を配置するかは、そのとき観客に見せなくてはならない人物の行動と一致します。
ある人物がだれかと対立している(のを見せたい)時には、舞台上の人物は全員、対立の構図を取らなくてはなりません。対立の構図のもっともシンプルなものは、左右に分かれて向かい合う構図です。
だれかが心理的に追い込まれている(のを見せたい)ときには、周りの人物はその人物を取り囲むように包囲します。

もちろん、これは分かりやすい一例です。構図の作り方はたくさんあります。
対立の構図も、その力関係によってはまっすぐに正対せず、傾けてやる(基本的には力関係が強い方が、舞台上のより大きなスペースを確保する)必要があります。

観客の意識に入りやすい位置

また観客の意識に入りやすい位置入りにくい位置、というのがあります。

簡単にいえば、舞台の真ん中に近いほど意識に入りやすく、袖に近いほど目に入りにくくなります。
また観客に近い舞台手前ほど意識に入りやすく、奥に行くほど忘れられます。

僕はこれを強い位置、弱い位置、と呼びますが、観客にきちんと見せないといけない人は強い位置に、忘れて欲しい人は弱い位置に置く、というのが基本です。
また、出ハケについても、観客の意識にカットイン(アウト)したければ強い位置から、フェードイン(アウト)したければ弱い位置から、というのが基本です。

もちろん、これは動き(キーフレーム間の動画)についても同じことが言えます。
構図も、動きも、観客に見せたい人物の行動を象徴するものでなくてはならないのです。

そうでなければ、その人物は“ただ一人でやってるだけ”になり、観客の印象には残らないでしょう。
観客にある人物の行動を伝えるためには、その俳優ががんばればいいのではなく、舞台上の全員で伝えるのです。

動きは一番最初に作る。

そして忘れてはならないのは、これは立ち稽古の一番最初にやるべき作業だということです。
そしてシーン単体で作らずに、全体を流しながら、全体を視野に入れながらやるべき作業だということです。

ひょっとすると、俳優はなぜそのような動きが必要になるのか、動きの持つ象徴的な意味ではなく、キャラクターの心理という細部にこだわって説明を求めてくるかもしれません。しかし稽古の初期段階では、それに関わって立ち止まるべきではありません。

演出者にとって重要なことは、観客に正しく伝えること、であることを忘れてはなりません。
俳優がなんの演技もしなくても(たとえ静止画でも)、だいたい物語を伝えられるよ、というところまで作ってしまいましょう。

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