立ち稽古〜細部

思想が正しければ、感情はなんでもいい。

稽古とか、演出とかいわれて、みんなが想像するのがこの部分です。細かいテクニックについては、優れた教科書がたくさんありますので、ここでは述べません。ただいくつか、注意しなくてはならないポイントを説明したいと思います。

まず演出は、キャラクターの心情や生理にフォーカスしすぎないということです。
これは「物語とは何か?」のところでも述べましたが、そこを整理し、役として成立させるのは、役者の仕事なのです。人の仕事にズカズカと踏み込むものではありません。

演出者が描くべきは“思想”であるとは、これまで何度も言ってきました。
であるならば、あるセリフを笑って言おうが、泣いて言おうが、怒って言おうが、それを通して見えてくる思想がズレていないなら、どれでもいいのです。

そもそも配役において、キャラクターがもつ“肉体”を俳優がもっているなら、俳優の生理のままにしゃべっていれば、思想はさほどブレないはずです。それを、「ここは泣いて言うはず」というような、表面上の感情にとらわれて、俳優の演技を変えてしまうことは、非常に危険なことです。

もちろん、「ここで描くべき思想は“力強くあるいてきた人の破綻”であるから、感情が一度崩れて泣く必要がある」というならば、それは思想を正しく表現するための指示なので問題ありません。ただ、そこで「泣いて」と安易に指示を出すのは、あまりにも芸がない気がします。

俳優のことを理解していれば、どうすれば「泣いて」と言わなくても、勝手に泣くかが分かるはずです。
大事なシーンほど、こうして、と指示を出すよりも、俳優が勝手にそうなるようにこっそりしむけてあげた方がいいのです。

なぜなら、俳優は言われてやるよりも、自分で辿り着いた時の方がいい芝居をするからです。

役者は、自由になったときに、もっともいい芝居をする。

これは、僕が常々意識していることです。

自由というのは、放っておくという意味ではありません。自由に演技をやれている、という実感を感じられる状態にしてあげることです。放っておく方がいい人もいれば、とことん話し合いたい人もいます。同じシーンを繰り返したい人もいれば、全体を流す方がいい人もいま す。

個々の役者にあわせて、自由を与えてあげることです。

役をもっとも理解しているのは、その人生を生きている役者であることを忘れてはいけません。演出者は、その生き様が観客に与える影響に集中すべきなのです。

演出者が一番やってはいけないこと

役者を支配することです。

演出者が囚われやすい、もっとも魅惑的かつ下劣な感情が、「威張りたい」という感情です。残念ながら、演出という立場は全体を引っ張る立場にあるので、みんなよりエラい=威張るという構図になりやすいのです。そして俳優も、そういうものだとそれを受け入れてしまいがちです。

ですがそれは大きな過ちです。演出者は作品に最も奉仕する奴隷であるべきです。

繰り返しになりますが、演出者の仕事は俳優の演技指導ではありません
演技及びそれに伴う役の成立は絶対に俳優の仕事であり、俳優もそれを肝に銘じて責任を負うべきです。

演出者の仕事は、あくまでも対観客、思想を正しく表現できているかを確認し、ズレていたら修正すること、であることを忘れないでください。

物語は、観客の印象で紡がれる。

ここで一度、脚本の書き方講座「客の印象をコントロールする」をふりかえってみたいと思います。

 脚本の書き方講座「客の印象をコントロールする」

…読んでいただけましたか?
観客の印象のコントロールは、演出する上でも重要です。

冷静に全体を見つめている観客と、だれか一人に集中して身を乗り出している観客では、聞こえる台詞の種類が違います。観客を驚かせたいなら、その前に観客をリラックスさせて油断させなくてはなりません。そうして観客の意識をコントロールしなくては、作品を“傍観”させることはできても、“体感”させることはできません。

そして実はこれは、劇場の外から始まっているのです。
観客は、いったいどういうつもりでこの舞台を見に来るのでしょうか?

ワクワクしたくて?
思いっきりゲラゲラ笑いたくて?
感動してボロボロ泣きたいのでしょうか?
じっくり重厚なものを見たいのでしょうか?

ある程度、“どういうつもりで来るか”がコントロールできていないと、観客は作品の世界観にすんなり入ってくれません。ですからチラシでもホームページでも、広告宣伝媒体には気を使わなくてはなりません。それは観客の”どういうつもりで来るか”に直結するからです。

作品の世界観に入ってもらうことは重要です。
寒い冬に、真夏の暑さは想像しづらいですよね?それは作品選定の段階で考えなくてはなりません。公演の曜日はどうでしょう?平日の仕事帰りより、休日の方がリラックスして見に来てくれそうですね。駅から劇場までの距離は?長いと疲れます。また暑かったり寒かったり、厳しい環境にさらされて劇場にたどり着くのか、リラックスしてくるのかによっても、お客さんの作品冒頭のテンションは違います。

ワクワクしながら来ているなら、冒頭は思いっきりにぎやかにして、一気に物語の世界に引きずり込んでみようか。
疲れて身体が固くなっているだろうから、ゆっくりゆっくり舞台に入り込めるよう、観客に直接語りかけるような雰囲気からスタートしてみようか。
それとも…。

正しく物語を伝えようと思うなら、観客の状態を正確に分析していないといけません。
こっちはこっちで完璧なもの作るから、あとはきちんと見てくれ、というのは無責任な考えです。観客というのは、見せなければ、見てくれないものです。だから、ちゃんと見せる。そして見せるとは、届けることです。

そのためには、観客の意識をきちんとコントロールすることです。

Scroll to top