3-2. セリフを書く – セリフと日常会話は違う

ここでは、セリフというものについて解説していきたいと思います。どちらかというと脚本やシナリオ、戯曲を書きたい人向けの話になってしまうかと思います。小説などの文章メディアの人にとってもセリフは重要ですが、脚本向けの話しもしていくので、読みたいところだけ読んでください。

セリフと日常会話の違い

セリフというのは、キャラクターが話す言葉ですが、一つ重要なことがあります。たとえそれが日常的な光景であっても、それは決して日常の言語とは同じにならない、ということです。

日常の言葉というものは、言ってみれば迷路を勘だけで進んでいるようなものです。相手がどんな返答を返してくるかわからないですし、いつ話題が変わるか、どういう結論になって行くか、会話してみるまでわかりません。

しかし、セリフは違います。あるセリフは、必ず次のセリフを導き出さなくてはなりません。そして、また次のセリフ、次のセリフ…と続いていき、そして最後のセリフにたどり着きます。言ってみれば、全てのセリフは最後の一行のためにある、ということです。これが、次にどんな言葉がくるかわからない日常会話との、決定的な違いです。

そしてもう一つの違いは、それは必要な情報を的確に観客に伝える言葉でなくてはならない、ということです。話し手のキャラクターの状態や相手との関係性、目的、行なっている行動など、物語を伝えるために必要な情報です。逆に言えば、的確な言葉でありさえすれば、それは話し言葉である必要さえありません。

そういう意味で、セリフとはイメージ言語である、とも言えます。観客の想像力を喚起する言葉。それを突き詰めていけば、それはになるでしょう。

この基本を忘れて、なんとなくしゃべりそうそうな会話をさせてしまうと、冗長な会話になってしまいます。必要な情報を、的確に、最小限の言葉で伝える。(あえて冗長にすることで伝える、という場合もありますが)セリフとはそういうものなのです。

なぜ、その言葉が必要か – 全ての言葉には意味がある

ですから、脚本の中には意味のないセリフは存在しないのです。全ての言葉に意味がある。役割がある、と言ってもいいでしょう。セリフが本当に必要かどうかを検証する作業は、刃物を研ぐ作業に似ているとよく感じます。

身体で表現すること – 言葉は補足でしかない

脚本、ということで考えた場合、もう一つ忘れてはならないことがあります。それは、言葉よりも身体の方がよりたくさんのことを伝えられる、ということです。

観客にとって、目の情報は実に重要です。人間が五感の中でどれを優位に感じているかは、人によって違うそうですが、目の情報が極めて重要なことは変わりません。堂々と立っている人間を見て、元気がないとは人は思わないものです。

ですから、脚本においては身体言語を目一杯使うべきです。身体の状態や動きで説明できることは身体に任せて、それだけでは伝えられない内容を言葉で補足するのです。

脚本というとつい、セリフを書くもの、と考えてしまいがちですが、セリフで全てを説明しようとして、説明台詞だらけになったり、無駄なセリフが多くて集中力を欠いてしまうことはよくあります。セリフはどうしても言葉を使わなくては伝えられないことに絞り、常にキャラクターの体の状態を頭に入れておくべきです。伝えるべきことを伝えられれば、セリフの多少は何の影響もありません。
(もちろん、あえて大量のセリフを使う表現形態もあります。大事なことは、何を見せたいか、そのためにどんなセリフが必要か、です)

常に観客の視点で考える – キャラクターの顔を見てはいけない

それでもセリフを書きすぎてしまう原因のひとつに、キャラクターの顔を見ながら書いている、ということが挙げられます。

これは本当によくあることで、キャラクターに感情移入すればするほどに、そのキャラクターの顔ばかりを思い浮かべたり、あるいはそのキャラクターが見ているものを一緒に見てしまったりしがちです。もちろん「なんだか乗って書いてしまった」というのはいいでしょう。前述したように、乗ったときは乗るべきです。

しかし基本的には、同じ感情移入するなら、観客と同じ感情になりながら書くべきだと考えています。観客が見ているものを一緒に見て、観客が感じていることを一緒に感じながら書いていると、作家の独りよがりの脚本にはなりにくいものです。これは、ちょっと意識をしていれば、すぐにできるようになるテクニックです。

執筆にあたっては、ぜひ観客と同じ視点に立って、シーンを想像してみてください。

舞台上の配置を考えながら書く

さらに舞台の脚本に関して言うならば、舞台上の役者の配置も頭においておくと良いでしょう。これは引き絵で見せる演劇ならではの方法論です。

舞台上の俳優の位置の変化は、実に多くのことを語ってくれます。これを使わない手はありません。位置の変化で伝えられる情報は、伝えてしまいましょう。

先頭に戻る