4-2. おわりに – “批評家”になってはいけない

これで、新版の「脚本の書き方講座」はおしまいです。

今回は脚本に限らず、シナリオでも小説でも、物語を作ってみたい方の参考になるように…と思って書いていたのですが、やはり脚本寄りになってしまいました。でも、物語を作る基本はどれも同じだと思います。きちんとした構成があり、プロットがあり、そしてそれを具体的な表現に落とし込む時に、様々な表現手法に分かれていくだけです。

小説だったら文章を使います。演劇や映画では、俳優の肉体だったり、カメラワークだったりを使います。アニメーションならば、絵や声が大事になってくるでしょう。この表現手法の方法論は無限大です。そこはもう「いろんな作品を見て好みのものを見つけてください」としか言えないのですが…見つけた手法を自分のものにするには結局、やってみるしかないのです。

  • とにかく書く。
  • そして発表する。

それ以外に、成長する手段はありません。

最後にお伝えしたいこと

僕が劇作のワークショップをする時に、皆さんに何度もくり返し言っていることがあります。

 絶対に、批評家にならないでください。

誤解を招くのでちょっと表現を変えましょう。批評家ならぬ“否定家”にならないでください。

人の作品を見て「あそこがおかしい」「ここがおかしい」というのは簡単です。あなたが観客だったら、いくらでも好きなだけ言ってください。観客は作品に対し、どんな感想でも言う権利があります。でもあなたが作家なら…たとえどんなに(自分にとって)つまらないものを見たとしても、その「良いところ」「学べるところ」「取り入れられるところ」を見つけてください。

良いアイデアにたどり着くために大事なことは「Yes, and」だと前にお話しました。また「一見使えなさそうなもの」「正解だと考えてみる」ことによって、新しいアイデアにたどり着くこともある、ともお話ししました。

作品を否定することは簡単です(批評じゃないですよ)。ですが、私たちがなりたいものは否定家ではなく、作家です。良い作品を生み出すことが、私たちの目的です。どれだけ他人の欠点をあげつらっても、自分が良い作品を生み出せなければ意味がありません。

何よりも恐ろしいことは、人の欠点を見つけることで「自分の方が優れている」と勘違いしてしまうことです。「人より優れていたい」という欲求はだれしも持っているもので、人はたやすくその欲求に溺れます。自らの力量を伸ばすことなく、人を落とすことで自分に価値を見いだす…それはとても志の低い話です。

批評が悪いわけではないのです。だれかの作品を見て「なるほど、ここでこうすると、こういう誤解を観客に与えてしまうんだな、気をつけよう」などと考えるのは、とても良い学びです。また、相手が対等に議論できる相手であるならば、互いにもっと良い作品を生み出すべく、批評をし、高め合うことは素晴らしいことです。

大事なことは、

  • 相手と対等であるか?
  • 相手の作品に敬意を払っているか?

ということです。これが失われると、批評はただの否定に変わります

批評の目は、他人よりもむしろ、自分自身に向けておくべきです。

あなたの作品の価値は、あなたにしか決められない

なぜなら、作品の良し悪しに絶対的な基準などないからです。

観客は作品の良し悪しを自由に語ります。でもそれは、結局のところ見た人の好き嫌い—好みの問題でしかありません。だれかにとってつまらないものであっても、だれかにとっては素晴らしいものかもしれないのです。ですから、だれかがあなたの作品を「価値がない」と言ったとしても、それを気に病む必要はありません。それは“その人にとって”価値がなかった、というだけのことです。

人の好みは千差万別です。だれか一人が「ああした方がいい」「こうした方がいい」と言ったとして、他の人も本当にそう思っているでしょうか? もちろんそんなことはありません。批判もまた、千差万別なのです。

では、だれの言うことに従ったら、正解の作品が作れるのでしょうか。
一人しかいません。あなた自身です。

あなた自身が、だれよりも厳しい目で自分の作品を批評し、より良い作品を作るために、努力していく。それ以外に正解はありません。

もちろん、あなたが「あれこれ言われた方が燃えるタイプ」なら、どんどん言われてください。ほめられた方が調子が出るなら、ほめられましょう。気になるタイプならシャットアウトしてください。他者の意見をどう利用するかは、あなた次第です。

ですが、あなたの作品の価値は、あなたが決めてください。これが良いものだったのか、イマイチだったのか、その判断を他人にゆだねてはいけません。だれよりも厳しい目で、あなた自身が判断を下すべきです。

それが表現者としての責任だと、僕は思っています。

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