2. 起承転結を考える。

見終わった後のお客さんの印象は?

先ほど、テーマを定めました。ここでなんとなくイメージしてみましょう。——そのテーマに沿った芝居を書き、上演しました。終わった後、お客さんが劇場から出ていきます。

その時、お客さんは何を思っていますか?

戦争はいけないな。
人って簡単に死んでしまうものなんだな。
なんで戦争が起こるんだろう。
それでも、必要な戦争ってあるんじゃないかな。
……

つまり、お客さんが抱く印象です。

同じ芝居を観ても、抱く印象はお客さん一人一人違うはずです。なので、これもまたたくさんピックアップします。あればあるほどいいです。これが、これから自分が書く脚本の指針になります。

この印象は、当然テーマに沿ったものになっているはずですが、お客さんの中にはテーマに対する反論を抱く人もいるでしょう。いろんなパターンを考えることが重要です。

場はどこで、主人公はだれか?

テーマと、終演後の印象がイメージできれば、だいたいどんな場所で、どんな主人公かが想像できるはずです。深く考える必要はありません。思いつきでパッと決めましょう。ここでも「漠然と」です。もし違うな、と思ったら、その時点で変えればいいんです。

この「いつでも変えられる」という認識が実に重要です。この辺りの段取りは、試しては戻り、試しては戻りと、何度も何度もくり返すことになります。こう、と決めてそれに固執すると発想が狭まりますから、なるべくラフに、漠然と決めていく方がいろんなイメージが浮かびます。

その印象を与えるシーンは何か?

そして次に、その終演後の印象を与えるためのシーンを考えます。この時点では、前後のつながりなどはいっさい考えません。いつも通り漠然と、です。

人って簡単に死んでしまうものなんだな、という印象を与えるには、だれかが簡単に死んでしまうシーンが必要そうです。ではそれをお客さんに強い印象として残すためには、だれが、どんな死に方したらいいのでしょうか?

出てくる人出てくる人、次々あっさり死んでいくか?
当然最後まで生き残ると思った主人公の親友が、戦地に行った瞬間、あっさり死んでしまうか?
それともラスト、主人公がたった一発の銃弾で死んで行くというのはどうか?

いろんなパターンを考えてみます。必要なら、場や主人公を変えても構いません。

親友が死んで行くなら、こんな主人公。
ラストに自分が死ぬなら、こっちの主人公。

というように、好き勝手に考えます。

同様に、他の印象を与えるシーンについても考えます。終演後の印象がたくさんあって、それぞれの印象に対してたくさんのシーンのアイデアがあれば、「たくさんの印象×たくさんのシーン」でアイデアの数は膨大なものになるはずです。

何度も言いますが、この時点では、シーンごとの繋がりは必要ありません。ただのアイデア集で構いません。できる限りたくさんのアイデアがあることが重要です。

大ざっぱな起承転結を考える。

さて、ここまででテーマが決まりました。その芝居を見終わった後のお客さんの印象もイメージできました。それを描くに足る「場」と「主人公」もなんとなく決まりました。起こるであろうシーンのアイデアもたくさん用意しました。

ここで、アイデアをいくつか組み合わせて、大ざっぱな起承転結を考えます。なんとなく、こうなって、こうなって、こうなる感じの話だなあ、というくらいで構いません。しかし、注意点があります。起承転結は、あくまでも主人公を主軸に考えるということです。

まず起と結を考えてみましょう。起と結とは、「どんな主人公」が「どうなる」話なのか、ということです。舞台の最初と最後で、主人公が変化していることが重要です。(僕の書き方では)主人公の変化の流れが、物語の流れだからです。

たとえば、ここでは場を「架空のアジアの戦場」、主人公を「銃を持ったゲリラの少年」としてみましょう。そしてこの話は、「銃を持ったゲリラの少年」が「銃を捨てる」物語と仮定してみます。しかしこれでは簡単すぎますので、もう少し詳しくしてみます。

架空のアジアの戦場で生まれ、物心ついた時から銃と共に生きてきたゲリラの少年が、戦争を知らない日本人の男と出会い、知りあううちに戦いのない世界を知り、銃を捨てていく話。

なんとなくイメージできそうです。多くの場合、起承転結を考える時、ここまでで満足しがちです。しかし、ここには起と結しかありません。

「架空のアジアの戦場で生まれ、物心ついた時から銃と共に生きてきたゲリラの少年が、戦争を知らない日本人の男と出会い、知りあううちに戦いのない世界を知る」

までが起です。ですからそれに続くとしたら、

「自分の常識を外れた平和な世界を知るうちに、いままで生きてきた自分の世界に疑問を抱き、また平和な世界に憧れるようになる。」

が、承になるでしょうか。さらにもう少し深くするために、「しかし毎日のように戦いは続き、少年の思考を奪っていく」というニュアンスを足してもいいかもしれません。

次は転です。
主人公の少年は、平和に憧れる方向に進んできました。最後は銃を捨てる物語です。ですからここでは分かりやすく、転ではその逆を取ってみます。

「大きな戦いが起こり、そこで少年が戦いをためらったがために、大事な人が死んでしまう。少年は自分を迷わせた日本人を恨み、銃をとり、報復に向かう。日本人は命がけで止めに行く。」

そして結です。
これは銃を捨てるという結末が最初に決まっていますから、転(報復に向かう)から結(銃を捨てる)への主人公の変化のきっかけだけ考えてあげればいいわけです。アイデア集の中から、いいきっかけを探します。ここでは「誤って日本人を撃ってしまう」というアイデアがあったと仮定し、利用してみます。

「日本人の説得で戦いは止まりかけるが、小さな行き違いから、少年は誤って日本人を撃ってしまう。日本人は死んでしまうが、少年は銃を捨てる決意をする」

起承転結もパターンが必要。

さて、ここまでで大ざっぱに一つのパターンを考えてみました。先の段階でアイデアがたくさん出ていれば、いろんな起承転結が作れるはずです。定めたテーマを描けて、想定した通りの印象を与えられる起承転結を探して下さい。

起承転結は一つあればいいんじゃないかと思いがちですが、この段階での起承転結など、この先もっと詳しくしていく中で、簡単に崩れます。いくつもパターンを作っておきましょう。その方が、後で困りません。アイデアは多く、かつ柔軟に。これが重要です。

先頭に戻る