4. プロットを作る。

キャラクターを決める。

先ほど、必要な役割とその担い手を考えました。たくさんのパターンを考えましたので、それを本当に必要な数人に集約していきましょう。ここでは仮に、ゲリラのリーダーというキャラクターを想定してみます。このキャラクターに担わせる役割を配置していきましょう。

  • 主人公と日本人を出会わせる役割
  • 少年に戦いのない世界を教える役割
  • 大きな戦いを起こす役割
  • 少年に再び銃をとらせる役割

実際にはもっとたくさんあるでしょうが、ここでは仮にこの4つに絞って考えてみます。たった4つではありますが、時系列順に並べてみることによって、なんとなくこのリーダー自身のストーリーが見えてこないでしょうか。

何らかのゲリラ活動の中、日本人を捕まえてきてアジトに連れてきたとしましょう。そこで主人公の少年に見張りを任せたとします。ここが「主人公と日本人を出会わせる役割」です。

そして自分たちが戦いの果てに求めるものとして、リーダー自身が幼い頃に経験した、平和な世界を主人公に語るとします。ここが「少年に戦いのない世界を教える役割」です。

しかし主人公は、そのせいで日本人と心を通じ始め、戦いをやめる方向に向かってしまいます。にも関わらず、戦争はより激しくなり、追い込まれたリーダーは総攻撃を決意します。ここが「大きな戦いを起こす役割」です。

その戦いで主人公が戦うことをためらったがために、リーダーは死んでしまいます。それにショックを受けた主人公は、自分を惑わせた日本人を恨み、復讐をするべく再び銃を手にします。ここが「少年に再び銃をとらせる役割」です。

もっとたくさんの役割があれば、もっとリーダーの物語はふくらんでいくでしょう。同じことを、先ほど考えた全部の役割を消費するまで続けます。個々のキャラクター自身のストーリーがきちんと成立するように、全ての役割を配置していってください。

キャラクターを増やさず、なるべく多くの役割を配置する。

役割を配置する際、書き手はついキャラクターを増やして、役割を分散させてしまいがちです。その方が楽だからです。一人のキャラクターに負わせる役割を少なくすれば、そのキャラクターの行動はシンプルになります。役割が少なく、故に心情も少なく、故に行動も少なく、そうなればキャラクターを書くのは簡単ですが、その人物像は浅くなります。深いキャラクター数人で脚本を書くよりも、浅いキャラクターを大量に出して、都合よくストーリーを回してもらった方が楽なのです。

もちろん、そういう書き方もありますが、僕は好みません。キャラクターを増やすよりも、無理やりにでも役割をたくさん負わせる事が大事だと思っています。矛盾しそうな役割を負わせて、それを何とか成立させるにはどうしたらいいか考えた方が、キャラクターも物語も深みを増していくのです。

たとえば、「銃って嫌だと思わせる役割」が余ったとしましょう。別のキャラクターを用意すれば簡単ですが、先のリーダーに詰め込む事を考えてみます。

平和な世界を望み始めた主人公に、戦闘を強いる事で「銃って嫌だ」と思わせるのは簡単です。簡単すぎるのはおもしろくないので、本当はリーダーも銃が嫌だと思っているとしましょう。戦闘を強いて、それを拒絶しようとする主人公に対し、オレだって嫌だがやらなきゃいけない戦いはある、といって、残酷に敵を殺したとしましょう。銃によって、親しかったリーダーが恐ろしく変貌していく様を見て、「銃って嫌だ」と思い、かつリーダーの葛藤と、必要な戦いがあるという事を実感させられる、というのはどうでしょう。だいぶ深まってきました。

今は分かりやすくするために、シンプルに話を進めていますが、実際にはもっといろんな事を考えます。
たくさんの役割を重ね合わせます。

ここまでの過程をくり返す。

これはほんの思いつきですが、先ほど新たに役割を付け足した事によって、どうやら「必要な戦いはある」という役割もこの物語に必要そうな気がしてきました。今はリーダーに担わせる形で思いつきましたが、他の担い手はいないでしょうか?

もしいいアイデアが浮かんだら、ひょっとすると起承転結が変わってくるかもしれません。それが変わったら、また必要な役割も代わるかもしれません。それが変わったら、キャラクターも変わっていくかもしれません。もしかすると、根本のテーマなども変わっていくかもしれません。

変わっていいんです。
そのために漠然と考えてきたんです。

「テーマ」〜「キャラクター」までは、納得がいくまで何度でもくり返します。どこかが変わったら、必ず最初まで立ち返って、ズレが生じていないか考え直します。何度も、何度も、です。考えれば考えるほど、いろんなアイデアがたまってくるはずです。たとえ変更によって使えなくなったアイデアがあっても、無駄にはなりません。それはどこかで急に役に立つかもしれませんし、たとえ今の台本で使えなくても、次の台本で使えるかもしれません。

書き手は、ついつい一本の脚本に全部を詰め込みたがります。もちろん、要素は多いに越した事はありません。脚本に深みが増すからです。が、必要な事と不要な事はきちんと見分けをつけなくてはなりません。不要な事まで、ただ「やりたい」という書き手のエゴによって詰め込んでしまうと、物語の芯がぶれてしまいます。

もう一度、言います。「テーマ」〜「キャラクター」までは、納得がいくまで何度でもくり返します。本当に必要な事だけで構成されているかどうか、どこかにズレが生じていないか、キャラクターも物語も、十分に深まっているか。何度も何度も確認しましょう。

全体の構成を考える。

  1. まず、テーマを定めました。
  2. 芝居を見終わった後の、お客さんの抱く印象を考えました。
  3. その印象を与えるシーンを考えました。
  4. そこから、大ざっぱな起承転結を考えました。
  5. その起承転結に必要な役割をピックアップしました。
  6. その役割の担い手を考えました。
  7. それを数人のキャラクターに集約し、キャラクター自身のストーリーを考えました。

ここまで来れば、もう物語の全体の構成が見えているはずです。もう一度、必要な役割のリストに目を通しましょう。それを先ほどはキャラクターごとに分類しましたが、次は全体の時系列にそって並べ直してみます。

各キャラクターの物語はできているわけですから、後はどっちが先で、どっちが後かというだけのことです。どの順番で見ていったら、一番お客さんが気持ちよく見られるか、というだけのことです。最初のシーンでは、この役割とこの役割を果たし、次のシーンではこの役割とこの役割を果たし…頭から考えていきます。もちろん、ズレが生じたら、前に戻りましょう。

同時に、具体的なシーンイメージも考えます。先ほど、役割をキャラクターに配置する過程で、なんとなく実際に展開されるシーンのイメージは考えました。それをもうちょっと具体的にするだけのことです。

  • このキャラとこのキャラがいるな。
  • こんな会話をしているな。
  • こんな話の展開になるな。

などなどです。
たとえば、あるシーンで「銃って嫌だと思わせる役割」を果たすことにしたとしましょう。実際はどんな展開になるのか、具体的に考えてみます。

主人公の少年、リーダー、それに捕虜がいることにします。必要であれば、日本人や、他のゲリラの仲間も出しますが、基本は最少人数で考えます。

  • 捕虜を殺そうとするリーダー。
  • それに反発する少年。
  • それを振り切って捕虜を殺すリーダー。
  • これは必要なことなのだと言いながら、本当はリーダー自身も銃を嫌っていることをにじませる
  • しかし少年はそれを理解し切れない。
  • そこから、戦闘の中、リーダーが次々と人を殺していくイメージシーンに入る。
  • それを恐ろしく思い、逃げようとする少年。
  • その前に日本人がやってきて、少年を抱きしめる…。

大ざっぱではありますが、だいたい書かなければならないシーンのイメージをしてみました。書かなければならないセリフもイメージできると思います。

ここでは1つの役割で1つのシーンを考えましたが、もちろん1つのシーンの中で果たす役割は1つとは限りません。むしろ果たすべき役割が1つしかないシーンは、深みにかけ、おもしろくなりません。同時に果たせるものは、一気に片づけてしまうべきです。

  • どのシーンでどの役割を果たすのか?
  • その役割を果たすには、実際にどんなシーンを書けばいいのか?

ここにいたって、ついに「漠然と」ではなく、「具体的に」考えるのです。

プロットの完成

これで、プロットが出来上がりました。プロットとは、詳しいあらすじのようなものです。人によって定義はだいぶ異なりますが、僕はシーン1「〜〜」シーン2「〜〜」というように、シーン単位のあらすじを書いていきます。短ければ10ページ程度、長いものでは20ページくらいになります。プロットとしては長いと思うのですが、僕の場合、実際に舞台上で起こる事を基本的に全部書き込んでいるためです。

これが出来上がると、いよいよ実際に台本を書く作業に入ります。しかし、プロットの段階で全て書くことが決まっているので、台本を書く上ではほとんど迷わないですむはずです。

  • 何を書けばいいのか、分かっていること。
  • 全体のイメージが出来上がっていること。
  • 各キャラクターの物語が、きちんと成立していること。
  • そしてもちろん、自分の書きたかったテーマが描けていること。

これらのことは、脚本を書く上でとても重要なことなのですが、なかなかうまくいかないものです。
それをきちんと確認するための、プロットです。

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