3-4. 伏線のはり方 – 人を描けば、伏線は生まれる

劇作を教えるコースをやっている中で、よくきかれる質問の一つに「伏線ってどうやって張ったらいいんですか?」というものがあります。この質問には、僕はけっこう「うーん…」となってしまいます。というのも、そういう質問をする人は、たいてい伏線を「観客を引っかける罠(=事象)」として捉えている、と見受けられるからです。

いえ、それ自体は間違いではありません。

  1. ここで観客をこう驚かせたいから、
  2. この辺でこれを見せておいて、
  3. 次にこう勘違いさせておいて、
  4. それから種明かしをしよう

のような、観客を引っかける構成は必要です。
ですが何度もお話しているように、物語は人間を描くものです。ですから観客をだますためにキャラクターを行動させるのは間違いです。(それは 「出来事」と「行動」の違いのところでお話しました)ですから伏線というものは、あくまでも人物の葛藤と行動の結果として生まれるもので、気軽にくっつけたり取っ払ったり出来るものではないのです。

しかもそれは、そのキャラクターの必然の行動として描かれなければなりません。でなければ、いかにもとってつけた、見え見えの伏線になるでしょう。あるキャラクターが、どうしてもそうせざるを得ない行動の中に潜んでいるから、観客は自然と受け入れてくれるのです。

伏線の基本

そのことを踏まえた上で、まずは伏線の基本をお話しておきましょう。伏線とは、ものすごく単純に言ってしまえばこの三つです。

  • 観客に偽の答えを与えておく
  • 違和感で疑問を与える
  • 本当の答えを見せる

単純な例を挙げてみます。

  1. 普段は親友としての行動をしている(偽の答え=表向きの行動)
  2. 時折、友人としてはおかしな行動をとる(=内面の表出)
  3. その時、観客は違和感を感じる(違和感で疑問を与える)
  4. 友人は実は悪人で「だからあのときあんなこと…!」となる(本当の答えを見せる)

ひどいくらいありきたりの伏線です。ですがこういったものを書く時、注意して欲しいことがあります。それは「親友としての行動」「おかしな行動」に夢中にならない、ということです。

伏線を張ろうと意気込む人は、いかにも親友っぽい行動をさせることや、どうやったら意味深に見えるか、などに注力します。ですが伏線で重要なのは3番の「観客の違和感」です。これを「物語のどの段階で、どの程度の印象づけるのか」こそが重要です。ここが作家の腕の見せ所となります。

キャラクターを深めれば、自然と伏線は生まれてくる

ここで「違和感がどこから生まれてくるのか」を確認しておきましょう。先の例では表の顔と裏の顔が違うから、ということになりますが、これをもうちょっと一般化して考えると、キャラクターの表向きの目的と内面の目的が違うから、となります。

主人公に限らず、どんなキャラクターであっても、その物語にとって重要であればあるほどに、たくさんの葛藤を持っているはずです。観客は、最初キャラクターの表向きの目的しか知りません。しかし、キャラクター本人は内面の目的から逃れることはできないので、行動するうちにどうしても表面と内面の間でギャップが生まれてきます。そして、内面の目的が強ければ強いほど、葛藤も強まり、それは普段の行動の中ににじみ出てきてしまうでしょう。

  • 表層と内面の間に大きなギャップがあれば、大きな葛藤が生まれます。
  • 大きな葛藤があれば、たくさんの違和感が生まれます。
  • それは大きな伏線を作ります。

つまり、作家がキャラクターの内面をきちんと深め、適切に行動させ、成長させていれば、自然と伏線のようなものは出来てくる、ということです。あとは「どの段階でどの程度観客に見せるのか」このバランスです。

だから、観客の印象を理解する

伏線を“いい感じに”張る”には、何よりも“見せ方”のバランスが大事です。そのためには、観客の「印象の構造」を知っていなくてはなりません。観客が、物語のどの時点で何を感じているかを理解していれば「どの段階でどの程度観客に見せるのか」は、おのずと見えてくるはずです。

いくつかポイントを上げるならば、まずひとつの伏線の回収は、別の伏線が生まれてからにする、ということです。「これ、どうなってるんだろう?」と思った途端に解決し、また「なに?」が生まれてすぐに解決し、というように、次々伏線が回収されていっては、先の展開に期待することが出来ません

また、伏線とは人間の行動なので、より強い印象を持った行動でかき消すことができます。違和感を感じさせておいて、一度忘れさせ、時間が経ってからまた思い出させる、というのも良い手です。違和感を感じたのに、それに触れられることなく放置されると、観客は苛立ちます。後々解決する伏線は「忘れさせる」という段階を挟んだ方が得なことが多くあります。

まず、人を描く

伏線は、観客の期待を高めるためのものです。あえて描かない、ミスリードさせることで、驚きを与えるものです。観客に違和感や疑問を与えて、この先の展開を心待ちにさせるものです。うまく使えば、これほど頼りになる武器はありません。

逆に最もやってはいけないことは、全く描いていなかったものを突然出してはいけない、ということです。(伏線なしの種明かしですね)どんなに突然に見えるものでも「ああ、たしかに描いてあった!」と思い出させるから、おもしろいのです。特に物語のラストにまったく出てきていなかったものが出てくると、観客は間違いなく白けます。

物語の中で起こることには、意思があると前にお話ししました。伏線もまた、意思と意思が絡まり合った結果生まれるものです。伏線というものを何か特別なものと思わず、キャラクターに目一杯葛藤させ、行動させることに力を使ってください。

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